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コラム
「俺とエランと米子の街」
表題作でもあるこのページ「俺とエランと米子の街」では、私の周辺でおこる様々な出来事、「米子の街」の紹介やお薦めスポット、「エラン」や「ロータス」に関するエピソード等を一話完結スタイルで綴ったエッセイ風短編集です

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No.8 名水とうふ
 
 

 それにしても不思議に思うのは、姿かたちの違う色々な建築物の集まった街中には、現代のトヨタ・クラウンやBMWなどの車がよく似合っている事である。 
  これはいったいどうした事なのだろう。この俺が推察するに、現代の一般的な建物も車も、おそらくそれらが造られる過程において、その思想的背景が同じであったと思うのだ。要するに、最近の建物も車も、どちらも似たような考えで造られたのだ。似たような考え、すなわち経済優先と言う考え方の事である。
 かつての車造りは、ただひたすら良い車を造ろうとしていた。あの天才コーリン・チャップマンなどはその代表と言える。しかるに最近の車造りは、良い車を造ろうとする以前に、売れる車を造ろうとしてきたのではないのか。だからこそ、建物であれ車であれ、同じ経済優先の考え方にもとづいて造られたものならば、お互いよく似合って当然と言えるのだ。変な言い方をすれば、赤れんがの壁の横には現代の車はお似合いではないのである。  

 そういう訳でヒデちゃんと俺は、色とりどりの建物が立ち並ぶ米子の街中を避けて、もっぱら緑あふれる大山周辺を走り回る。俺たちの愛車である60年代のオープンスポーツには、緑に包まれた山岳道路が似合っている。混雑した街中は似合わないのだ。
 信号のほとんどない、大自然のオープンロードを風にまかせて走るとき、俺たち二人は最高にごきげんなのである。ときどき、気まぐれにお互いの走る順を入れ替えたりしながら、決して速くはない、むしろゆっくりとしたスピードで、俺たちは運転を楽しんでいる。 ひとつのコーナーをクリアすると、また次のコーナーが迫ってくる。そのたびに4速の中から適切なギアを選び出し、左足のすばやいクラッチワークでもって、切れ味するどいコーナリングを完成させるのだ。
あやつるマシーンと一体となってすばやくコーナーを抜けて行く歓び。それは、かつてイギリス・グランプリにおいて連勝を誇った、ロータスチームの伝説のドライバーであるジム・クラークも体感した歓びの世界なのだ。
 
このように、俺たち二人は車との一体感を味わいながら、風をも友として、緑あふれる大山の道を走りつづける。 美しい自然と心地よい風、そして60年代のオープンスポーツ。そこではすべてが一体となっている。そこにはいつも驚きがあり、歓びがあり、そして新鮮な刺激を感じることが出来るのだ。 

 大山周辺の山岳道路をひとしきり走ると、その心地よい疲れをいやすため、ヒデちゃんと俺は大山のふもとにある白鳳の里( はくほうのさと )に立ち寄るのだ。米子市に隣接する淀江町にこの白鳳の里はある。上淀廃寺( かみよどはいじ )と呼ばれる、わが国においても有名な古墳跡に、みやげ物店とレストランを併設させた観光客のための休憩施設なのだ。ここでは、地元の人たちの手作り品や特産物が販売されているが、大山周辺の森から採れるどんぐりの実を加工した色々な食品がここの目玉商品と言える。どんぐりうどんとか、どんぐりせんべいとか、実のところこの俺もよく食べている。しかしながら店内を見わたすと、あまりに多くのどんぐり製品が置かれているので、おせっかいなこの俺は、ついつい余計な心配をしてしまう。大山周辺の森から、これだけ大量のどんぐりの実が消えうせてしまえば、森に生きる小動物たちは、いったい何を食べて生きるのだろうか。そんな事を考えてしまうのだ。ヒデちゃんとふたりで白鳳の里に立ち寄るたびに、この問題について店の誰かにたずねようと思うのであるが、おそらく走り回ってきた運転の疲れからであろう、いまだに店の人に質問することなく終わっているのだ。

ころで白鳳の里では、おいしいとうふを食べることが出来る。大山のふもとからわき出る名水を使って、このとうふは作られる。名づけて、〔 名水とうふ 〕と言うのだ。一見したところ、何のへんてつもない普通のとうふに見える。しかし問題はその味にある。ひとたび醤油をたらしてこのとうふを口に運べば、何とも表現しがたいその味覚に、誰しもが心を奪われることであろう。 本当においしい、名水によって作られた本物の味なのだ。ヒデちゃんと俺は、白鳳の里に立ち寄るたびにこの名水とうふを注文する。 大山が生んだ名水とうふを食べながら、ついさっきまで大山を走り回ってきた疲れを、他愛のないおしゃべりとともに癒すことにしているのだ。白鳳の里の名水とうふ、それは俺たち二人にとって本当にありがたい、大山からの贈り物なのである。